わたしたちが日常生活で行ったこと、言ったこと、聞いたこと、考えたことは、これからの自分の運命を方向づけ境遇をかたちづくることになる。ではどのような身・口・意にわたる行いが自身の境遇をよくするカルマ(業)となり、どのような行いが自分の未来に苦しみや不幸をもたらす悪しきカルマとなるのか。カルマの法則に基づいて、どんな生き方、物の見方、考え方をすべきかを、できるだけ具体的にお話ししていこう。 |
賠償請求を放棄したセイロン
昭和26年、サンフランシスコで対日平和条約が締結されたとき、米ソ両国をはじめ各国は日本にたいし戦争責任を問い、賠償を求めた。そうしたなかにあってセイロン(現在のスリランカ)の代表、ジャヤワーデナー蔵相は、対日平和条約が締結されたとき、対日賠償請求を放棄すると宣言した。その演説のなかで、氏は次のような釈尊の言葉を引用したのである。
怨みは怨みをもっては、ついに休息を得べからず
忍を行ずれば、怨みを息むるを得ん。
これを如来の法と名く。
仏教国であるセイロンの代表、ジャヤワーデナー氏は、敗戦国にたいし、怨みを懐いて仕返し的な処置を取っても、それによって真の世界平和はもたらされるものではないと、右に聖句を引用し、米ソの態度を暗にいましめたのである。
生々世々の悪因縁
ところで、この聖句は『真理の言葉』と題される経典の中の一節なのであるが、それは次のような因縁話とでもいうべきものをふまえて説かれた教えなのである。
ある名家の主人が亡くなった。そのとき主人の息子はまだ結婚していなかった。子孫が断えてはいけないので息子は嫁をもらうことになり、以前から気に入っていた娘を家に迎えた。しかし彼女は結婚して2年たち3年たっても妊娠しなかった。子が生まれないことに責任を感じた妻は、家の跡つぎをつくるため自ら別の女性を連れてきて、夫の第二婦人として迎え入れさせた。
やがて第二夫人は夫の子を身篭った。だが、第一夫人は、もし第二夫人が跡継ぎとなる子を産んだなら、子を産めない自分の立場があやうくなることを恐れ、第二夫人が懐妊するごとに、第二夫人の食事に毒を盛って、流産させてしまう。
このことに気がついた第二夫人は、三回目の妊娠を第一夫人にひたかくしにしていたが、お腹のなかの赤ちゃんが大きくなりすぎて、難産となり母も子も死んでしまう。
難産で死んだ第二夫人は、しばらくして、この家の猫に生まれ変わる。
一方、第一夫人の所行を知った夫は、立腹し、妻を打って死なせてしまう。そして、第一夫人もやがて、この家のめん鳥として生まれ変わるが、猫はめん鳥が卵を生むたびごとに食べてしまう。
めん鳥は死に、今度は雌の豹に生れ変り、猫のほうは死んで雌の鹿に生まれ変わる。そして雌豹は雌鹿を食い殺してしまう。
豹に食い殺された鹿は次に鬼女に生まれ変わった。一方、雌豹のほうは、家柄のよい家の娘に生まれ、名家の男性と結婚することになる。
ところがこの名家の妻が子を産むと、鬼女は赤ン坊をさらって殺してしまう。二人目の子が生まれたときも鬼女は赤ン坊をさらっていった。
名家の妻に三人目の子が生まれてしばらくした頃、夫婦は赤ン坊を連れて旅に出かけた。が、途中、夫が川で沐浴をしているとき、またもや鬼女が赤ン坊をさらいにやってきた。
母親は赤ン坊を抱いて必死に逃げ、僧院へとかけ込み救いを求めた。
僧院ではちょうど釈尊がお弟子や信徒に教えを説いておられるところであった。事情を聞かれた釈尊は、お弟子の阿難尊者に命じて、鬼女を連れてこさせた。
そして、釈尊は、鬼女と母親を前にして「お前たちには、前世に何代もにわたって、怨みを抱き、互いに仕返しをし合ってきたのだ。この悪因縁を断ち切るには」と言って説かれたのが、
怨みは怨みをもっては、ついに休息を得べからず。
忍を行ずれば、怨みを息むるを得ん。
という聖句なのである。
ワイス博士の追証
人にたいして怨みの心を懐くことは、その人との間に生々世々、殺し殺されるという悪しきカルマ、悪業をつくる因になるのである。
アメリカの著名な精神科医、ブライアン・ワイス博士も、怨みの念を懐くことは悪しきカルマとなるという法則を発見している。
ワイス博士は、300例以上もの退行催眠によって多くの人々の前世を探った結果、次のように述べている。
「同じシナリオが何回もの前世でくり返されている可能性もありました。多分、今生で起こった出来事は、同じような一連のトラウマの中の、最も最近に生じた事件にすぎないのです。くり返しのパターンはすでに確立していたのです。私の患者の多くは催眠状態で、何回もの過去世において、様々な形でくり返されている異なったトラウマのパターンをいくつも思い出しています。そのパターンの中には、父と娘の近親相姦が何世紀にわたって続き、今生でもそれがもう一度くり返されている、というものがあります。また、過去世での暴力的な夫が、今生では暴力的な父親として現れるというパターンもあります。アルコール中毒によって過去世で何回も破滅したというのもあれば、ある不仲な夫婦の場合は、二人は四回もの過去世で互いに殺し合っていたことがわかりました。今までの体験を通して、男女問題、夫婦の問題、家族の問題など、難しくて深刻な問題の根本的な原因は、前世にあることが私にはわかってきました。問題の根本原因の探求や治療法が、現在の関係という時間的な制限を越えて行われると、苦痛が減少し、時には治ってしまうこともあります。現在の人生における人間関係に現れた怒り、憎しみ、恐れ等の否定的な感情や行動の原因は、実は何世紀も前にあったということが、実際にしばしばあるのです」(『前世療法2』PHP研究所)
では、どうしたら、このような悪因縁を断ちきり、悪しきカルマをつくらないですむようになるであろうか。
それには、人にたいする怨みの念を断ち切ってしまうことである。が、われわれ凡夫は、なかなか人への怨みの心をなくすことはむつかしい。人から怨まれたら、その2倍も3倍も怨み返してやろうという煩悩を持っている。
ではどうすればよいか。仏力、経力にすがることである。これ以外におのが罪障、悪因縁を断ちきる方法はない。そのためには正しい信仰を持つことが必要だ。それは法華経の教えであり、日蓮聖人の信仰である。
法華経、日蓮聖人の教えを正しく復興された本門佛立宗の開祖、日扇聖人は、
「生々世々の敵き止まず。親子、妻子、主従、朋友、この因縁に善悪あり。この大法にあいて、信心つよければ、悪を転じ、かたきやむ」(日扇聖人全集12巻199頁)
と説いておられる。
本門佛立宗のお寺にお参りし、御題目を唱えつづけ、教えを聞き重ねるうちに、怨みの心は消えていき、御題目に備わる仏力、経力によって悪業、悪因縁は断ち切られていくのである。
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