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  平成の眠りを覚ます

2005/12



 国際日本文化研究センター教授、川勝平太氏は、著書「世界経済は危機を乗り越えるか」のまえがきの冒頭で次のように述べています。「日本の安政の開国によって世界が一つの環になったといわれる」

 まさに、人類が迎えた画期的な局面と同時期に、開導日扇聖人によって本門佛立講は開講されたのです。明年、ご開講から一五〇年目のご正当をお迎えいたします。

 退廃し果てた仏教諸宗の中で、本門佛立講は真実の仏教とは何かを世に問い、回向や葬儀で生計を立て、戯論に終始して本義を曲げ、惰眠を貪る諸宗と一線を画して、日扇聖人はご弘通を開始されたのです。安政年間に詠まれた俗歌に、

 泰平の眠りを覚ます上喜撰
   たった四杯で夜も眠れず

とあるのは、ペリーの黒船ばかりではなく、本門佛立講のご開講は、多くの僧侶や檀家信徒の重い瞼を開かせたに違いありません。

 平成年間。今や蒸気船は飛行機に変わり、インターネットの普及により世界はまた画期的な局面を迎えました。豊かに発展を遂げてきた我が国も、急速に経済成長を続ける大国の狭間で、安政年間に匹敵する苦渋の決断、迅速な対応を迫られています。しかしながら、戦後六十年を迎え、組織や制度は老朽化し、太平の世に慣れた人の重い腰は、到来した乱世の中でも思うように動き始めません。

 明年、ご開講から一五〇年目の記念すべき年を迎えるに当たり、私たちは開講当時の教講が抱いた使命感の一分を見習うべきです。

 十一月三日から十四日まで来日した十四名のスリランカの方々。横浜から京都、大阪から神戸へと、過密なスケジュールにも関わらず、輝くような笑顔を絶やすことなく、元気にご奉公してくださいました。そして、永遠に忘れられない強烈なインパクトを与えてくれました。

 連日連夜、彼らのお話を通じて、開講当時に見た草創期のご信者の御姿、現証の御利益に支えられた強い信仰心と、情熱的な使命感と、菩薩行を心から楽しんで実践する姿に心を奪われました。興奮して眠れぬ夜、次の歌が浮かびました。

 平成の眠りを覚ます蒸気船
   たった十四人で夜も眠れず

下手な替え歌ですが、平成の佛立信徒は、個人的な御祈願や回向はしても、そこに止まったままで、菩薩の使命感が欠落しています。開講当時に比べて、惰眠を貪っていると見られても仕方ありません。

 乳癌との診断を受け、セカンドオピニオンを聞く為に訪れた国立病院で、ラジ女史はミランダ博士に出会いました。「キャンサー(癌)」という言葉を聞いただけで、ラジさんは愕然としてしまっていたといいます。すると、開口一番、
「あなた、仏教を学んだ?」
とミランダ博士は尋ねました。
「ええ。でも何の関係があるの?私はここに診察に来たのよ」
「分かったわ。じゃあ、夕方六時に迎えに行くから、私の家に来てゆっくり話をしましょう。そう、最初に仏教の詠唱をした方が良いと思うの。その後で放射線治療や病気の話をした方が良いわ」
ラジさんは、半信半疑のままで、ミランダさんの家を訪れ、一晩中一緒に御題目を唱えられました。

 数日後、再検査の結果、見事に腫瘍は消え、ラジ女史は入信されました。まさに現証の御利益です。間髪入れず、ミランダ女史は、

「本門佛立宗は、病気治しの信仰ではありません。あなたには使命があります。それは出身国であるインドに真実の仏教を帰すこと」

とミランダ博士は告げ、ラジ女史は素直にそれを受け入れました。

 使命を抱くラジ女史は、インドに上行所伝の御題目をご弘通する意義を改めて聞かせてくれました。

「インドは偉大な国です。何よりブッダを生みだした思想的な土壌がありました。しかし、インドはブッダの教えを失い、ヒンドゥーに埋没してしまいました。現在のインドにはカーストがあります。宗教に根ざしたカースト制度は、現在も身分制度として根強く残り人々を縛り付けているのです」

「真にインドが開放されるために、私たちの国から輩出したブッダの教えがどのようなものであったか知る必要があります。知識階層はそのことを求めています。今こそ、故郷には真実の仏教が必要です」

「今、インドはチベット亡命政府を受け入れ、チベット僧が数多く暮らしています。彼らはブッダを敬い、諸経典を研鑽し、修行しています。そして、彼らは法華経が、多くの経典の中で最も勝れていることを知っており、呪文を唱えるという修行もしています。ただ、極東の日本に法華経の予言を全て体現された日蓮聖人の存在を知りません。そして、日蓮聖人が顕された南無妙法蓮華経という御題目、何より御題目を唱えるという修行を未だ知りません。今回、三千人のチベット僧に、福岡御導師からそのことを伝えていただきます」

「仏教の修行には様々なスタイルがあります。しかし、インド人は、五感を使う修行、口で唱える修行の方が単なる瞑想よりもメリットが大きいことを知っているのです。個人の為だけにする瞑想ではなく、他者にまで良い影響を及ぼす口唱という修行が、まさに素晴らしいと知っています。そうした人々に、御題目口唱のご信心が伝わることこそ、何より有難いのです」

 ラジ女史のお話は、確信に満ち、強い使命感と情熱に溢れています。また、ミランダ女史は通訳をしていた私の妻に暖かいお折伏をしてくださいました。彼女の疑問に 私は理屈で対抗していたのですが、
「疑っていても良いから、御題目をお唱えしてみて。あなたの大切なものは何?」
「息子かしら」
「では、息子さんや家族の幸せを祈って、御題目をお唱えしてみて。必ず感じられる。感じられるから」

 次の日、本山の本堂には、素直に御題目をお唱えする妻の姿がありました。議論に時間を費やすより、御題目をお唱えさせれば分かる。ミランダ女史の、強い御題目口唱へのご信心、確信を痛感しました。

 インドからではなく、アメリカで流行したヨーガが日本でも話題になっています。しかし、御題目口唱はヨーガ(瑜伽)や瞑想より遙かに大きく、素晴らしい影響を心身に与えます。御題目をお唱えしてみなければ、そのメリットを知らないままになってしまいます。

 佛立開講一五〇年を目前に控え、御題目口唱の尊い価値を、私たち自身が実践し、実感しましょう。異国の方の口々から、御題目口唱の素晴らしさを改めて教えて頂き、素敵な朝が訪れたのですから。



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